内縁関係の人が知っておきたい、葬儀とお金と“法の壁”


戸籍上の「家族」じゃない、ただそれだけで

「長年一緒に暮らしていたのに、あなたには何の権限もありません」と言われたら…
その場で涙を飲み込んだ方を、何人も見てきました。

内縁関係──事実婚とも言われる関係。
長年寄り添ってきた大切なパートナーが突然亡くなったとき、「戸籍に名前が載っていない」という理由だけで、想像以上の“壁”にぶつかることがあります。

この記事では、葬祭ディレクターとして私が現場で実際に経験してきた事例を交えながら、「葬儀の現場で起こるリアルなトラブル」と「その乗り越え方」についてお伝えします。

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内縁関係や家族のかたちが多様化する今、法的な備えや喪主のあり方について知っておくと安心です。

この記事でわかること

  • 内縁(事実婚)でもできること/できないことの線引き
  • 死亡届・火葬許可・喪主など当日の実務で迷わないポイント
  • 遺骨・お墓・お金(相続/年金/保険/葬祭費)のリアル
  • 争いを避けるための遺言・死後事務委任契約・受取人指定の整え方
  • すぐ使えるテンプレとチェックリスト

3行まとめ

  • 内縁でもできる実務は多い:死亡届の届出、喪主、葬祭費の請求などは現実的。
  • 壁は主にお金と遺骨:相続は遺言、遺骨は祭祀主宰者の指定で道を作る。
  • 今日から整えられる:遺言+死後事務委任+受取人指定+証跡の保管で“困らない未来”に近づく。

法の壁・早見表(内縁の場合)

内縁(事実婚)で直面する「法の壁」早見表
テーマ 壁になりやすい点 内縁でもできること 解決策・備え
死亡届 誰が届出人になれるか不安 同居の内縁パートナーは同居者として届出人になれる(同居年数や自治体による) 役所へは死亡診断書(または検案書)同封。葬儀社代行が一般的
喪主・施主 法的な定義がないため親族と衝突 慣習上の決めごと。家族合意があれば内縁でも可 事前合意メモ/死後事務委任で「葬儀主宰者」を明示
遺骨・墓所 「遺骨は誰のもの?」問題 遺骨は相続財産ではなく、原則「祭祀主宰者」に帰属 遺言で祭祀主宰者を指定。争い時は家裁の判断
相続 法定相続人にならない 遺言(遺贈)/保険・退職金の受取人指定/特別縁故者制度(相続人不存在時)
年金 「遺族年金は無理?」 事実婚として認定されれば対象になり得る(生計同一等の要件あり) 住民票・家計・同居実態の資料化。年金事務所で事前確認
葬祭費・埋葬料 誰に支給?金額は? 国保の葬祭費=葬儀を行った者/健保の埋葬料=生計維持+埋葬を行った者 等 領収書・喪主名義で保存。2年以内に申請

死亡届の届出人は戸籍法により同居の親族・同居者・家主等が対象。内縁の同居者は届出人になれます。

遺骨は相続財産ではなく、祭祀を主宰すべき者に帰属するのが実務の通説(最高裁平成元年判例・民法897条の理解)。

国保の葬祭費は「葬儀を行った者(喪主)」に支給(額は自治体差、例:7万円)。健保の埋葬料は原則5万円。

遺族年金は、内縁でも事実婚の認定+生計(同一/維持)要件を満たせば対象になり得ます。


家族として見てもらえない瞬間

内縁関係の方が直面する“つらい瞬間”の例をいくつか挙げてみます。

  • ご遺体との対面を拒まれる
  • 搬送の立ち会いを親族に制止される
  • 死亡届の届出人になれない
  • 親族に「あなたは関係ない」と言われる
  • 故人の所持品や資産管理から外される

葬儀の場では、想像以上に「形式」と「法律」が重視されます。
心が追いつかないまま、現実だけが冷たく進んでいく──そんな場面に、何度も立ち会ってきました。

内縁関係で最期を迎えた場合、戸籍の繋がりがないというのが最後になってハードルになることがあります。

「葬儀に関わる権利」がないという現実

例えば喪主。
喪主といえば、葬儀を代表して執り行う人という印象ですが、実は法律上の定義が明確ではありません
親族でなくても、故人の意思や周囲の合意があれば喪主を務めることは可能です。

…ですが、実際には「誰が支払うのか」「誰が代表するのか」が問題になります。
内縁の妻・夫が「喪主になります」と言っても、親族から「あなたに頼んでいない」「勝手なことはやめて」と言われることもあるのです。

最近は家族葬が多いのでココが問題になることは減ってきました。ある程度規模の大きなお葬式では今でも内縁者は裏方にいるケースをみかけます。

死亡届の届出人になれる場合もある

意外かもしれませんが、死亡届の届出人は「親族でなければいけない」とは限りません。
実は、医師や看護師、大家、同居人などでも可とされており、自治体によっては「長年の同居実績がある内縁のパートナー」であれば受理されることもあります。

ただし、役所の判断や地域の慣例に左右されるので、事前に確認を取っておくことが重要です。

お金の管理と“法の壁”

ある時、内縁の妻が故人のキャッシュカードを持ってきて、「火葬費用を下ろしたい」と言ったのですが、親族の姉が現れて、

「そのカードとパスワード、揃えて持ってこい!」
と詰め寄る場面がありました。部屋の空気が凍りつきました。

法律上、内縁のパートナーには財産管理の権利がありません
口座凍結もすぐに始まり、たとえ生活費を一緒に出し合っていたとしても、内縁者にはアクセスができないのが現実です。

そしてもう一つ。
葬儀費用を立て替えても、その分を遺産から回収することが難しいという点。
明確な遺言がない限り、相続の対象にならないことがほとんどです。

内縁者が増えていき裁判所の判例が変わっていくことで改善はあるかもしれません。

感情と現実のはざまで

葬儀の場は、感情がむき出しになることも多いです。
仲が悪かった親族と顔を合わせなければならない。
「自分が一番近くで支えてきた」という思いが、かえってトラブルの火種になる。

現場で何度も感じるのは、「感情と現実の食い違い」が大きな衝突を生むということです。
“法”ではなく“心”を頼りに生きてきた関係だからこそ、最後の場面でつらさが浮き彫りになるのです。

伝え方テンプレ(親族・職場)

「今回は内縁の配偶者である私が喪主として最小限で見送ります。手続きと体調を優先し、ご弔問と香典はご遠慮ください。落ち着きましたら短いお礼の時間を設けます。」

  • 役所向けの窓口説明は「同居者です(内縁)」が通りやすい表現です。

できる備えと、心を守る選択

では、どうすればよかったのか──
現場で私が強く感じるのは、次の3つです。

  1. エンディングノートや遺言で意思を残しておくこと
  2. 信頼できる葬儀社に生前相談しておくこと
  3. パートナーと、いざという時のことを話しておくこと

特に内縁関係の場合、“家族としての証明”を自分たちで準備しておく必要があります。

そして何より大事なのは、自分の心を守ること。
悲しみの中でさらに傷つかないために、事前にできる準備は決して“冷たい行為”ではなく、“思いやりの選択”です。

親戚付き合いが希薄になってきていますが、生前から内縁でもそういった付き合いが良好であれば、いざという時にもスムーズに進むかもしれませんね。


👉遺言書とエンディングノートの違い――私らしい“想いの残し方”を見つけよう

いますぐ始められる“法的備え”

  • 遺言書:相続財産のゆくえ/祭祀主宰者の指定/遺言執行者の指名まで。
  • 死後事務委任契約:葬儀・火葬・納骨・役所手続・遺品整理の「誰に何を頼むか」を契約で明示。公的ガイドも整備されています。
  • 受取人指定:保険・退職金・互助会等は受取人を内縁者名義に
  • 記録の残し方:住民票の世帯、家計の実態(家賃・光熱費・口座引落)、同居実態の証跡を年金用にパッケージ化。

👉死後事務委任ってなに?親やパートナーが元気なうちに知っておきたいこと

チェックリスト(保存推奨)

  • □ 死亡届の届出人は誰にする?(同居者=内縁で可)
  • □ 領収書の宛名は喪主(請求者)名義で統一(葬祭費・埋葬料用)。
  • □ 遺骨の扱い:祭祀主宰者を遺言で指定。
  • □ 年金の事実婚・生計要件の証跡をまとめる(住民票・家計)。
  • □ 保険・退職金の受取人を確認・更新。
  • □ 死後事務委任契約の範囲(葬儀・納骨・解約)と受任者を決める。

よくある質問

Q. 内縁でも死亡届は出せますか?
A. 同居の内縁者は「同居者」として届出人になれます(戸籍法87条の解釈)。

Q. 遺骨は相続財産ですか?
A. いいえ。遺骨は相続財産ではなく、祭祀を主宰すべき者に帰属するのが実務の通説です。

Q. 遺族年金は受け取れますか?
A. 事実婚の認定生計(同一/維持)要件を満たせば対象になり得ます。具体は年金事務所で確認を。


まとめ:形式ではなく、想いを整えるために

どれだけ一緒に暮らしても、戸籍がないという理由だけで、葬儀の場から外されることがある。
お金の管理でも不利な立場に置かれる。
だけど、それでもできることはある──それが、私が葬儀社のスタッフとして現場で伝えたいことです。

見送るというのは、ただの手続きではありません。
大切な人との最期の時間を、どう整えるかという“心の営み”です。

「やっておけばよかった」と泣く方を、私はこれ以上見たくありません。

だからこそ、今、この記事を読んでくださっているあなたと一緒に、少しずつ準備をしていけたらと思います。

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