戸籍上の「家族」じゃない、ただそれだけで
「長年一緒に暮らしていたのに、あなたには何の権限もありません」と言われたら…
その場で涙を飲み込んだ方を、何人も見てきました。
内縁関係──事実婚とも言われる関係。
長年寄り添ってきた大切なパートナーが突然亡くなったとき、「戸籍に名前が載っていない」という理由だけで、想像以上の“壁”にぶつかることがあります。
この記事では、葬祭ディレクターとして私が現場で実際に経験してきた事例を交えながら、「葬儀の現場で起こるリアルなトラブル」と「その乗り越え方」についてお伝えします。
家族として見てもらえない瞬間
内縁関係の方が直面する“つらい瞬間”の例をいくつか挙げてみます。
- ご遺体との対面を拒まれる
- 搬送の立ち会いを親族に制止される
- 死亡届の届出人になれない
- 親族に「あなたは関係ない」と言われる
- 故人の所持品や資産管理から外される
葬儀の場では、想像以上に「形式」と「法律」が重視されます。
心が追いつかないまま、現実だけが冷たく進んでいく──そんな場面に、何度も立ち会ってきました。
内縁関係で最期を迎えた場合、戸籍の繋がりがないというのが最後になってハードルになることがあります。
「葬儀に関わる権利」がないという現実
例えば喪主。
喪主といえば、葬儀を代表して執り行う人という印象ですが、実は法律上の定義が明確ではありません。
親族でなくても、故人の意思や周囲の合意があれば喪主を務めることは可能です。
…ですが、実際には「誰が支払うのか」「誰が代表するのか」が問題になります。
内縁の妻・夫が「喪主になります」と言っても、親族から「あなたに頼んでいない」「勝手なことはやめて」と言われることもあるのです。
最近は家族葬が多いのでココが問題になることは減ってきました。ある程度規模の大きなお葬式では今でも内縁者は裏方にいるケースをみかけます。
死亡届の届出人になれる場合もある
意外かもしれませんが、死亡届の届出人は「親族でなければいけない」とは限りません。
実は、医師や看護師、大家、同居人などでも可とされており、自治体によっては「長年の同居実績がある内縁のパートナー」であれば受理されることもあります。
ただし、役所の判断や地域の慣例に左右されるので、事前に確認を取っておくことが重要です。
お金の管理と“法の壁”
ある時、内縁の妻が故人のキャッシュカードを持ってきて、「火葬費用を下ろしたい」と言ったのですが、親族の姉が現れて、
「そのカードとパスワード、揃えて持ってこい!」
と詰め寄る場面がありました。部屋の空気が凍りつきました。
法律上、内縁のパートナーには財産管理の権利がありません。
口座凍結もすぐに始まり、たとえ生活費を一緒に出し合っていたとしても、内縁者にはアクセスができないのが現実です。
そしてもう一つ。
葬儀費用を立て替えても、その分を遺産から回収することが難しいという点。
明確な遺言がない限り、相続の対象にならないことがほとんどです。
感情と現実のはざまで
葬儀の場は、感情がむき出しになることも多いです。
仲が悪かった親族と顔を合わせなければならない。
「自分が一番近くで支えてきた」という思いが、かえってトラブルの火種になる。
現場で何度も感じるのは、「感情と現実の食い違い」が大きな衝突を生むということです。
“法”ではなく“心”を頼りに生きてきた関係だからこそ、最後の場面でつらさが浮き彫りになるのです。
できる備えと、心を守る選択
では、どうすればよかったのか──
現場で私が強く感じるのは、次の3つです。
- エンディングノートや遺言で意思を残しておくこと
- 信頼できる葬儀社に生前相談しておくこと
- パートナーと、いざという時のことを話しておくこと
特に内縁関係の場合、“家族としての証明”を自分たちで準備しておく必要があります。
そして何より大事なのは、自分の心を守ること。
悲しみの中でさらに傷つかないために、事前にできる準備は決して“冷たい行為”ではなく、“思いやりの選択”です。
親戚付き合いが希薄になってきていますが、生前から内縁でもそういった付き合いが良好であれば、いざという時にもスムーズに進むかもしれませんね。
まとめ:形式ではなく、想いを整えるために
どれだけ一緒に暮らしても、戸籍がないという理由だけで、葬儀の場から外されることがある。
お金の管理でも不利な立場に置かれる。
だけど、それでもできることはある──それが、私が葬儀社のスタッフとして現場で伝えたいことです。
見送るというのは、ただの手続きではありません。
大切な人との最期の時間を、どう整えるかという“心の営み”です。
「やっておけばよかった」と泣く方を、私はこれ以上見たくありません。
だからこそ、今、この記事を読んでくださっているあなたと一緒に、少しずつ準備をしていけたらと思います。
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