納骨しないという選択肢──遺骨を手元に置く理由とその現実

「納骨しないなんて非常識?」という不安から

「お骨をずっと家に置いていてもいいのかな?」「納骨しないなんて、周りに変に思われない?」

葬儀のあと、こうした不安を口にされるご遺族は少なくありません。特に20代〜30代で親を亡くした方や、突然の別れを経験したばかりの方ほど、「納骨のタイミングが分からない」「心の整理がつかない」と悩まれます。

私は葬祭ディレクターとして、これまでに多くのご葬儀に立ち会ってきましたが、「納骨しないまま手元に置く」という選択をされる方は、ここ10年で確実に増えています。

今日はその理由や背景、そして実際に起きがちなトラブルや注意点まで、現場目線でお伝えします。


なぜ「納骨しない」という選択が増えているのか?

心の準備ができないままのお別れ

突然の事故や自死など、心の整理がつかないままに迎えた葬儀では、「まだ納骨はできない」と感じる方も少なくありません。お骨を手元に置くことで、少しずつ受け入れ、話しかけ、時間をかけてお別れしていく——そんな形が、今の時代のリアルです。

継ぐ人がいない・納骨先がない

「お墓がない」「実家はもう誰も住んでいない」「自分が亡くなったら誰が守るのか分からない」——そんな理由で、納骨自体を迷う方も多いです。

ここが一番多い理由だと感じます。

手元供養という考え方の広まり

最近ではミニ骨壺やペンダント型の手元供養品も増え、価格も3,000円〜20,000円ほどで手に入るようになりました。通販や専門店で気軽に購入でき、「特別なことではない」と思える環境が整ってきたのも一因です。


実際に起きた家族間の対立:遺骨をどうするか問題

あるとき、兄を亡くされたご家庭で、実家にお骨を置いたまま数年が経っていたというケースがありました。母は「もう納骨して供養してあげた方がいい」と望んでいましたが、弟さんが「兄を失った悲しみが癒えない」と強く反発。

私たち葬儀社スタッフが間に入りながら、何度も時間をかけてお話を伺いました。

結果として、「まずはミニ骨壺に一部を分骨し、手元に置く」「残りは納骨堂に安置する」という折衷案に落ち着きました。

誰かが悪いわけではない。でも、悲しみの受け止め方や、死への向き合い方は人それぞれ。だからこそ、話し合いが必要なのです。


納骨しない場合の注意点

長期保管によるトラブル

「気づけば5年経っていた」「親が亡くなった後、お骨の管理をめぐって兄弟で揉めた」——こうした相談も多いです。賃貸住宅での保管や引っ越しの際など、物理的・心理的な問題が後から浮かび上がることもあります。

他の家族との共有・理解

「自分だけが納骨を先延ばしにしていいのか」「家族にちゃんと話しているか」。手元供養は、あくまで“自分にとっての安心”の形。できれば、他の家族にも理由を共有しておきましょう。


私たちができること──葬祭ディレクターとして伝えたいこと

遺骨の供養に“正解”はありません。

ただ、心の整理ができるまでの時間を、自分のペースで過ごすこともまた、大切な供養の一部だと私は思っています。

そして、もし納骨をしないと決めるなら、その理由や気持ちを、できれば家族に伝えておいてください。

未来を、自分なりに描いておくことも、あなた自身を守ることにつながります。


「ホッとする」終活のかたちへ

ある女性のご家族は、亡くなったご主人の遺骨をリビングに置き、毎朝「おはよう」と声をかけていました。

「まだ納骨はできないけれど、ここにいてくれると安心する」と。その後、三回忌のタイミングで、ご自身の納得する場所に納骨されました。

このように、あなたなりの“ホッとする”かたちを選ぶことが、一番の終活になるのではないでしょうか。


あなたにとって、納骨とはなんでしょうか?

答えを出すのは、焦らなくても大丈夫です。

でも、少しでも迷いや不安があるなら、ぜひ誰かに相談してみてください。私たち葬儀社も、その一歩を応援したいと思っています。

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