人生会議(ACP〈エーシーピー〉)はいつ始める?葬祭ディレクターが伝える「家族が迷わない」話し方

この記事は約22分で読めます。
  1. はじめに
  2. この記事でわかること
  3. 3行まとめ
  4. 葬儀屋が人生会議を語る理由
  5. 人生会議が始めにくい本当の理由
  6. 人生会議(ACP〈エーシーピー〉)とは?
  7. 人生会議と葬儀の準備は、似ているようで別のもの
  8. 葬儀の現場で、家族が迷いやすい5つのこと
    1. 誰に連絡するか
    2. お寺・宗派・お墓との関係
    3. どんなお別れを望んでいたか
    4. 最期に会わせたい人がいたか
    5. 家族に何を託したかったか
  9. 人生会議を始めるタイミング|特別な日より「生活の合図」を使う
    1. 元気なうち|価値観を聞くタイミング
    2. 生活が変わった時|支え方を具体的にするタイミング
    3. 入院・手術・在宅医療が始まる時|専門職と一緒に考えるタイミング
    4. 診断直後や家族が疲れ切っている時は、結論を急がない
  10. 最初の10分は「会議」ではなく、親の考えを一つ聞く時間
    1. 最初の一言
    2. 質問は一つだけにする
    3. 聞いたことを言い直す
    4. 最後は、次の約束を決めずに終えてよい
  11. 葬祭ディレクターとして、最初に聞いておくと家族が助かる5つ
    1. これから先、何を大事にして過ごしたいか
    2. 困った時、誰に相談してほしいか
    3. もしもの時、誰に知らせてほしいか
    4. 葬儀で「これは大事」「これは望まない」はあるか
    5. お寺・お墓・遺骨について、家族が知らないことはあるか
  12. 話を断られた時は、進めない方がよい
  13. 希望を残しても、家族の判断がなくなるわけではない
  14. 話した内容は、短く残して家族に伝える
    1. 人生会議メモのテンプレート
    2. 話した内容を、紙に一冊で残しておきたい方へ
  15. 人生会議とエンディングノートの使い分け
    1. 人生会議で話すこと
    2. エンディングノートで整理すること
  16. 医療・介護・葬儀は、それぞれの専門家に相談する
    1. 医療のことは、かかりつけ医や病院の医療者へ
    2. 介護のことは、ケアマネジャーや地域包括支援センターへ
    3. 葬儀、お寺、お墓のことは、早めに確認する
  17. よくある質問
    1. Q. 人生会議は何歳から始めればいいですか?
    2. Q. 人生会議では、延命治療やDNAR〈ディー・エヌ・エー・アール〉を必ず決めなければいけませんか?
    3. Q. 親が「子どもに迷惑をかけたくない」と言う時は、どう返せばよいですか?
    4. Q. 家族葬の希望は、人生会議で聞いておいた方がいいですか?
    5. Q. 一度決めたことは、変えられますか?
  18. まとめ|今日やることは、一つだけでいい
  19. 関連記事

はじめに

葬儀の打ち合わせでは、ご家族からよくこんな言葉を聞きます。

「本人は、どんなふうに送られたかったんでしょうか」
「誰に連絡したらよかったんでしょうか」
「お寺さんには頼んだ方がよかったのかな」
「家族葬でいいと言っていたけれど、どこまでの人に知らせるべきだろう」
「これで本人らしい葬儀になっていますか」

葬儀では、亡くなってから短い時間のうちに、決めなければならないことが一気に出てきます。

誰に連絡するのか。
どこでお別れをするのか。
お寺との関係はどうするのか。
どんな写真を遺影にするのか。
どのくらいの人に見送ってもらうのか。
故人らしさを、どこに残すのか。

葬儀は、単に式の形を決める場ではありません。

亡くなった人がどんな人で、何を大事にして生きてきたのかを、残された家族が短い時間で受け取り直す場でもあります。

だからこそ、本人の考えを少しでも聞いていた家族は、迷いながらも話し合いを進めやすくなります。

反対に、何も聞けていないときは、

「これでよかったのかな」
「もっと他にできたことがあったのではないか」
「本人なら何を望んだだろう」

という、答えの出ない迷いを抱えやすくなります。

人生会議(ACP〈エーシーピー〉)は、葬儀の準備だけをするための話ではありません。

本来は、これからの医療や介護、どんな暮らしを大切にしたいかを、本人・家族・医療や介護の関係者で考えるための話し合いです。

ただ、葬祭ディレクターとして現場を見ていると、人生会議で交わした「本人らしさ」の話は、亡くなった後の家族の支えにもなります。

人生会議は、家族の悲しみをなくすものではありません。
けれど、「知らないから決められない」という苦しさを減らすことはできます。

この記事では、葬儀の現場で家族が迷いやすいことも踏まえながら、人生会議を重くしすぎずに始める方法を整理します。

この記事でわかること

  • 人生会議が、必要だと分かっていても始めにくい本当の理由
  • 葬儀の現場で、家族が実際に迷いやすいこと
  • 親が元気なうちに、重くならず人生会議を始めるタイミング
  • 最初の10分で聞いておきたいことと、そのまま使える声かけ例
  • 人生会議とエンディングノート、葬儀の事前相談の使い分け

3行まとめ

  • 人生会議は、最期の医療や葬儀を一度で決める会議ではなく、本人が大事にしたいことを少しずつ知っていく会話です。
  • 葬儀で家族が困るのは、選択肢が多いからだけではありません。本人の考えが分からず、「何を基準に決めればいいか」が見えないからです。
  • 希望は家族への命令ではなく、迷った時の方位磁針です。まずは一つだけ、本人の考えを聞くところから始めれば十分です。

葬儀屋が人生会議を語る理由

人生会議の中心は、医療や介護です。

どのような暮らしを大切にしたいか。
もし自分で決めにくくなったら、誰に相談してほしいか。
どのような医療やケアを望むか。

こうしたことを、本人を中心に考えていくのが人生会議です。

そのため、具体的な治療や介護サービスの選択は、医師、看護師、ケアマネジャーなどの専門職と一緒に考える必要があります。

では、葬儀屋が人生会議を語る意味は何でしょうか。

それは、亡くなった後に家族が直面する迷いを見ているからです。

医療の判断が終わった後も、家族にはたくさんの判断が残ります。

誰に知らせるのか。
誰に会ってもらうのか。
どんな形で送るのか。
宗教者を呼ぶのか。
遺骨をどうするのか。

そして、その一つ一つに「本人ならどう思うだろう」がついて回ります。

葬儀で家族が本当に欲しいのは、細かい指示書ではありません。

「あの人は、何を大事にする人だったか」

その手がかりです。

たとえば「家族葬で送ってほしい」とだけ聞いていても、家族は迷います。

家族だけで本当に静かに送りたいのか。
親族には知らせてほしいのか。
友人には参列ではなく連絡だけしてほしいのか。
お寺には来てもらいたいのか。
費用を抑えたいのか、それともお花を大事にしたいのか。

「家族葬」という言葉だけでは、実際の判断には足りません。

形式名よりも、

「大勢に気を遣わせたくない」
「親しい人には会ってほしい」
「お坊さんには来てもらいたい」
「派手にはしなくていいけれど、花は多めにしてほしい」

といった、本人の優先順位の方が、家族には役立ちます。

人生会議が始めにくい本当の理由

人生会議が難しいのは、死の話だからだけではありません。

話を始める人が、会話をした瞬間に「将来の責任まで全部引き受けることになる」と感じやすいからです。

親に、

「将来、どうしたい?」
「介護が必要になったらどうする?」
「亡くなった後はどうしてほしい?」

と聞くと、聞いた側も聞かれた側も、急に重くなります。

親は、

「子どもに迷惑をかけたくない」
「まだそんな話はしたくない」
「今は元気だから大丈夫」

と思うかもしれません。

子ども側も、

「聞いた以上は、全部かなえてあげないといけないのではないか」
「自宅で過ごしたいと言われたら、断れないのではないか」
「兄弟姉妹と意見が割れたらどうしよう」

と感じます。

ここで大切なのは、人生会議を「本人の希望を全部かなえる約束」と考えないことです。

本人の希望は大切です。

ただし、希望を実現するには、家族の生活、仕事、体力、距離、費用、使える制度やサービスなど、現実の条件も関わります。

本人が「できるだけ自宅で過ごしたい」と思っていても、家族だけで抱え込めるとは限りません。

逆に、家族が「施設の方が安心だ」と思っていても、本人は自宅で過ごしたいかもしれません。

人生会議は、本人の希望と家族の現実を戦わせるための場ではありません。

本人は何を大事にしたいのか。
家族は何なら支えられるのか。
足りない部分は、誰の力を借りればよいのか。

この三つを分けて考えるための会話です。

支えられる範囲を話すことは、冷たいことではありません。

無理をして途中で続かなくなるより、長く支えられる形を一緒に探す方が、本人にとっても家族にとっても現実的です。

人生会議(ACP〈エーシーピー〉)とは?

人生会議とは、もしもの時に備えて、

  • これからどんな暮らしを大事にしたいか
  • どのような医療や介護を望むか
  • 自分で気持ちを伝えにくくなった時、誰に相談してほしいか

を、本人、家族、大切な人、医療や介護の関係者で、繰り返し話し合っていくことです。

ACP〈エーシーピー〉は、アドバンス・ケア・プランニングの略です。

横文字で難しく見えますが、最初にすることは難しくありません。

本人が大事にしたいことを、家族が少しずつ知っておく。

これが人生会議の出発点です。

人生会議は、延命治療をするかしないかだけを決める話ではありません。

また、一度話せば終わるものでもありません。

体調が変われば、考えも変わります。
家族の状況が変われば、支え方も変わります。
住む場所や介護の環境が変われば、選べることも変わります。

だから人生会議は、「今の答え」を固定するためではなく、状況が変わった時にまた話せる関係を作るためのものです。

詳しい定義は、厚生労働省の人生会議ポータルサイトでも確認できます。

人生会議と葬儀の準備は、似ているようで別のもの

人生会議と葬儀の準備は、混同しやすいですが同じではありません。

人生会議は、本人の暮らしや医療・介護について考えるものです。

一方で、葬儀、供養、連絡先、保険、口座、スマホ、写真データなどは、エンディングノートで整理しやすい内容です。

ただし、完全に別々に考える必要もありません。

人生会議で、

「家族と過ごす時間を大切にしたい」
「親しい人にはきちんと知らせてほしい」
「お寺とのつながりは大事にしたい」
「大げさなことはしなくていい」

といった考えを聞けたなら、それは後から葬儀や供養を考える時にも役立ちます。

ここで大切なのは、希望を命令書にしないことです。

希望は、家族を縛るためのものではありません。
家族が迷った時に、進む方向を見失わないためのものです。

実際の葬儀では、本人の希望だけでなく、親族関係、菩提寺〈ぼだいじ〉との関係、費用、地域の事情なども関わります。

そのため、「本人の希望通りにできなかった」と考える必要はありません。

本人が何を大事にしたかったかを踏まえ、家族がその時にできる形を選べたなら、それは十分に本人らしいお別れになり得ます。

葬儀の現場で、家族が迷いやすい5つのこと

誰に連絡するか

家族は親族には連絡できても、友人、昔の勤務先、趣味の仲間、ご近所との関係までは把握していないことがあります。

特に家族葬の場合は、「知らせない」のではなく、「誰に、どの段階で、どう伝えるか」を決める必要があります。

家族葬は、小さな葬儀というよりも、連絡の範囲を家族が丁寧に考える葬儀でもあります。

「この人には知らせてほしい」
「この人には葬儀後に伝えてほしい」
「この人には連絡しなくてよい」

という一言があるだけでも、家族はかなり助かります。

お寺・宗派・お墓との関係

菩提寺があるのか。
宗派は何か。
お寺に読経を頼みたいのか。
先祖代々のお墓があるのか。

こうしたことは、亡くなってから初めて調べると、家族の負担になりやすい部分です。

「うちは浄土真宗らしい」
「お寺には相談してほしい」
「お墓は〇〇霊園にある」
「宗派は分からないけれど、親戚の誰かが知っている」

この程度でも、十分な手がかりになります。

宗派や菩提寺との関係が曖昧な時は、葬儀の宗派がわからないときは?菩提寺・お墓・無宗教葬の確認ポイントも参考にしてください。

どんなお別れを望んでいたか

「家族葬で」
「簡単でいい」
「派手にはしないで」

こうした言葉はよく聞きます。

ただ、家族にとっては少し曖昧です。

簡単にしたいのは、費用なのか。
会葬者への気遣いを減らしたいのか。
お通夜をしなくてもよいという意味なのか。
お坊さんは呼んでほしいのか。
お花だけは大事にしたいのか。

形式よりも、「何を残して、何を減らしたいか」を聞いておく方が役立ちます。

たとえば、

「家族だけで落ち着いて過ごせればいい」
「友人には知らせてあげてほしい」
「お坊さんには来てもらいたい」
「会食は無理にしなくていい」
「花はできれば多めにしてほしい」

といった言葉です。

最期に会わせたい人がいたか

亡くなった後に、ご家族が後悔しやすいことの一つが連絡です。

「もっと早く知らせてあげればよかった」
「会わせてあげたかった人がいたかもしれない」
「本人が大切にしていた人を知らなかった」

こうした後悔は、あとから取り戻せません。

人生会議の最初から「亡くなったら誰に連絡する?」と聞かなくても構いません。

ただ、普段の会話の中で、

「最近会っていないけれど、会いたい人はいる?」
「困った時に、誰に連絡したら安心?」
「昔の友人で、今も大事にしている人はいる?」

と聞くことには意味があります。

家族に何を託したかったか

「子どもに迷惑をかけたくない」と言う親御さんは多いです。

ただ、何も言わないことが、結果として家族を迷わせてしまうこともあります。

本人が大事にしていたこと。
葬儀で絶対に嫌なこと。
家族に伝えておきたいこと。
自分がいなくなった後、気にかけてほしい人。

一言でも残っていれば、家族にとっては支えになります。

人生会議を始めるタイミング|特別な日より「生活の合図」を使う

人生会議は、改まった家族会議を開かなければ始められないわけではありません。

むしろ、「人生会議をしよう」と言うほど、親も子どもも構えてしまいます。

始めやすいのは、日常の中にある小さなきっかけです。

元気なうち|価値観を聞くタイミング

親が元気なうちは、具体的な医療や介護の結論まで出す必要はありません。

まずは、どんな暮らしを大切にしたいかを聞く時期です。

たとえば、次のようなタイミングがあります。

  • 健診や通院の前後
  • 誕生日や還暦などの節目
  • 退職、引っ越し、同居など生活が変わる時
  • 保険や書類を整理している時
  • 親族や知人の入院、介護、葬儀の話題が出た時

保険や書類の整理がきっかけになるなら、資産・保険の棚卸しテンプレ|家族が困らない場所メモの作り方を見ながら進めるのも自然です。

この段階では、

「これから先、何ができたらうれしい?」
「困った時、誰に相談してほしい?」
「家族にどこまで頼りたいと思っている?」

といった、価値観を聞くところから始めます。

生活が変わった時|支え方を具体的にするタイミング

通院が増えた。
転びやすくなった。
一人暮らしが少し心配になってきた。
介護認定を受けた。
家族の誰かが遠方に住むことになった。

こうした変化があった時は、人生会議を少し具体化するタイミングです。

ただし、家族が先に「こうした方がいい」と決めるのは避けた方がよいです。

本人の気持ちを聞きながら、

  • 困った時、誰に相談したいか
  • どこまで自宅で暮らしたいか
  • 何を手伝ってもらえると安心か
  • 逆に、どんなことは避けたいか
  • 家族以外に頼れる人や制度はあるか

を考えていきます。

入院・手術・在宅医療が始まる時|専門職と一緒に考えるタイミング

入院、手術、がん治療、在宅医療、訪問看護、介護サービスの利用などが始まった時は、医療や介護の具体的な希望を考える時期です。

この段階では、家族だけで答えを出そうとしないことが大切です。

本人の思いを医師や看護師に伝え、病状や見通しを聞いたうえで、選べる方法を確認します。

たとえば、

「本人は、できるだけ苦しさを減らしたいと思っています。今の状態で選べる方法を教えてください」

「できるだけ自宅で過ごしたい気持ちがあります。家族だけで抱えずに使える支援はありますか」

と聞くと、本人の価値観から具体的な医療・介護の話につなげやすくなります。

診断直後や家族が疲れ切っている時は、結論を急がない

病気の診断直後、強い痛みがある時、家族全員が疲れ切っている時は、落ち着いて話し合うのが難しいものです。

この時に大切なのは、「今すぐ決めなければ」と家族だけで焦らないことです。

医療者に、

「今日、家族として決める必要があることは何ですか」
「本人が落ち着いてから考えられることは何ですか」

と確認してください。

急ぐことと、急がなくてよいことを分けるだけでも、家族の負担は減ります。

最初の10分は「会議」ではなく、親の考えを一つ聞く時間

人生会議を始める時に、いきなり延命治療や葬儀の話をする必要はありません。

最初のゴールは、親の考えを一つ聞くことです。

次の中から、一つだけ選んで聞いてみてください。

  • これから先、何を一番大事にして過ごしたい?
  • 困った時、誰に最初に相談してほしい?
  • 入院や介護が必要になったら、何が一番不安?
  • 家族に手伝ってほしいことはある?
  • 昔の友人や親戚で、今も大事にしている人はいる?

答えが短くても構いません。

「よく分からない」
「まだ考えたくない」
「その時になったら考える」

という答えでも、今の本人の気持ちを知れたことになります。

最初の一言

「全部を決める話じゃないんだけど、もしもの時に私が勝手に迷わないように、今の考えを少しだけ聞かせてほしい」

「今日は10分だけでいいから、これから何を大事にしたいかだけ教えてほしい」

「今すぐ何かを決めたいわけじゃないよ。あなたの考えを知っておきたいだけ」

質問は一つだけにする

「入院や介護が必要になったら、何が一番心配?」

または、

「自分で決めにくくなった時、誰に相談してほしいと思う?」

または、

「これから先も、どんな暮らしができたらうれしいと思う?」

一度に何個も聞かないことが大切です。

質問が多いと、相手は尋問されているように感じます。

最初は会話を広げるよりも、相手が話しやすい空気を残す方が大切です。

聞いたことを言い直す

「今は、できるだけ自宅で過ごしたいと思っているんだね」

「家族に負担をかけることが、一番心配なんだね」

「苦しい治療はできるだけ避けたいと思っているんだね」

言い直すことで、聞き間違いを減らせます。

また、本人も自分の気持ちを整理しやすくなります。

最後は、次の約束を決めずに終えてよい

「今日はこれだけ聞けたら十分。また考えが変わったら教えてね」

「今すぐ決めなくていいから、また話したくなったら聞かせて」

人生会議は、次回の予定を決めなくても構いません。

嫌な思いを残さず終えることが、次の会話につながります。

葬祭ディレクターとして、最初に聞いておくと家族が助かる5つ

この五つを、一度に全部聞く必要はありません。

家族の状況や本人の気持ちを見ながら、話しやすいものから一つずつ聞いていけば十分です。

これから先、何を大事にして過ごしたいか

これは、人生会議の土台になる質問です。

「家族と会える時間」
「住み慣れた家」
「痛みや苦しさを減らすこと」
「自分でできることを続けること」
「人に迷惑をかけすぎないこと」

何を大事にしたいかが分かると、医療や介護だけでなく、葬儀や供養を考える時にも本人らしさを見失いにくくなります。

困った時、誰に相談してほしいか

本人が自分で判断しにくくなった時、誰に相談してほしいか。

これは、家族が早めに確認しておくと役立ちます。

ただし、「あなたが全部決めて」と言われたとしても、一人で抱え込む必要はありません。

本人が信頼している人を把握しておくことと、一人で全責任を負うことは別です。

家族、親族、医師、ケアマネジャーなど、相談先を複数持つことが大切です。

もしもの時、誰に知らせてほしいか

誰に知らせるかは、葬儀の現場で家族が迷いやすい部分です。

親族だけでなく、

  • 昔からの友人
  • 元職場の人
  • 趣味の仲間
  • ご近所
  • 家族が連絡先を知らない人

についても、名前だけでも残っていると助かります。

「必ず知らせてほしい人」
「できれば知らせてほしい人」
「葬儀後に伝えてくれればよい人」

くらいに分けておくと、現実的です。

葬儀で「これは大事」「これは望まない」はあるか

葬儀の希望は、形式名より優先順位を聞く方が役立ちます。

「家族葬で」だけではなく、

「家族中心で、ゆっくり見送れたらいい」
「お寺には来てもらいたい」
「お通夜はなくてもいい」
「友人には知らせてあげてほしい」
「花は多めにしてほしい」
「費用はかけすぎなくていい」

といった形です。

葬儀をどうするか迷った時は、葬儀の事前相談で何を聞く?流れ・持ち物・見積もり確認ポイントも参考にしてください。

お寺・お墓・遺骨について、家族が知らないことはあるか

菩提寺、お墓、納骨先、遺骨に関する希望は、亡くなった後に確認すると負担になりやすい項目です。

分からない場合も、無理に調べ切る必要はありません。

「お寺があるらしい」
「お墓は〇〇県にある」
「親戚の〇〇さんが詳しい」
「遺骨はすぐ納骨せず、少し手元に置いてほしい」

といった情報だけでも、家族は動きやすくなります。

話を断られた時は、進めない方がよい

親が話したがらない時に、説得して進める必要はありません。

無理に続けると、「人生会議」という言葉そのものを嫌がられることがあります。

その時は、こう返してください。

「そうだよね。今日はやめよう」

「今すぐ決める話ではないから、また気が向いたら聞かせて」

「嫌な話をしたかったわけじゃなくて、困った時にあなたの気持ちを大事にしたいだけなんだ」

一度引くことは、失敗ではありません。

人生会議は、話せる時に、話せる範囲で進めるものです。

次の健診、保険の見直し、家族の集まり、昔の写真を見返す時など、自然なきっかけが来た時に、また一つだけ聞けば大丈夫です。

希望を残しても、家族の判断がなくなるわけではない

ここは大切な点です。

人生会議をしても、エンディングノートを書いても、家族の判断が完全になくなるわけではありません。

亡くなる時期、体調、家族の状況、親族関係、費用、使える制度などによって、現実は変わるからです。

たとえば本人が「家族葬で」と希望していても、親族への連絡をまったくしない方がよいとは限りません。

本人が「自宅で過ごしたい」と思っていても、家族だけで支えるのが難しいこともあります。

だから、希望をそのまま実現できなかったことを、家族が失敗だと考える必要はありません。

大切なのは、

本人の思いを知ったうえで、家族がその時にできる形を選べたか。

です。

何も分からないまま決めるのと、本人の考えを手がかりに決めるのでは、家族の迷い方が違います。

人生会議やエンディングノートは、家族に命令するためのものではありません。

残された人が、本人らしさを考えながら判断するための、やさしい手がかりです。

話した内容は、短く残して家族に伝える

人生会議では、完璧な書類を作る必要はありません。

まずは、話した内容を短く残せば十分です。

人生会議メモのテンプレート

【話した日】
【話した相手】

【今、大事にしたいこと】
例:できるだけ自宅で過ごしたい
例:家族と会える時間を大切にしたい
例:痛みや苦しさはできるだけ減らしたい

【今、不安に思っていること】
例:家族に迷惑をかけること
例:一人で決めること
例:入院が長くなること

【困った時、最初に相談してほしい人】

【もしもの時、知らせてほしい人】

【葬儀や供養で大事にしたいこと】

【お寺・お墓について分かっていること】

【次に確認したいこと】

【更新日】

このメモは、本人が見つけやすい場所に置き、家族のうち一人には保管場所を伝えておきましょう。

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話した内容を、紙に一冊で残しておきたい方へ

人生会議で話したことは、白紙のノートやスマホのメモに残すだけでも十分です。

ただ、連絡してほしい人、保険や通院先、葬儀や供養の希望なども、少しずつ一冊にまとめておきたい場合は、エンディングノートを使う方法もあります。

最初から全部を書き切る必要はありません。今回話せたことを一つ書く。思い出した時に、また一つ足す。そのくらいの使い方で大丈夫です。

保管場所や共有方法については、エンディングノートの保管場所と家族共有|見つかる置き場所・伝え方・デジタル保存で詳しく解説しています。

人生会議とエンディングノートの使い分け

人生会議とエンディングノートは、つながっていますが役割が違います。

人生会議で話すこと

  • これから先、どんな暮らしを大事にしたいか
  • 医療や介護で、何を優先したいか
  • 自分で決めにくくなった時、誰に相談してほしいか
  • 家族にどんな気持ちを知っておいてほしいか

エンディングノートで整理すること

  • 緊急連絡先
  • かかりつけ医や保険証の場所
  • 保険、口座、契約書類の保管場所
  • 葬儀や供養の希望
  • お寺や菩提寺との関係
  • お墓や遺骨についての希望
  • スマホ、SNS、サブスクなどのデジタル情報

人生会議で本人の思いを聞き、その後に必要な実務情報をエンディングノートへ残していく。

この順番なら、本人も家族も負担が少なくなります。

何を書けばよいか迷う方は、エンディングノートの書き方|家族が本当に助かる項目を葬祭ディレクターがやさしく解説も参考にしてください。

医療・介護・葬儀は、それぞれの専門家に相談する

人生会議を家族だけで完成させようとしなくて大丈夫です。

医療のことは、かかりつけ医や病院の医療者へ

治療、延命、心肺蘇生、在宅医療などの具体的な話は、病状や見通しによって答えが変わります。

本人が大事にしたいことを伝えたうえで、医師や看護師に相談してください。

介護のことは、ケアマネジャーや地域包括支援センターへ

介護認定を受けている場合は、ケアマネジャーに相談できます。

まだ介護認定を受けていない場合や、どこに相談すればよいか分からない場合は、地域包括支援センターが入口になります。

葬儀、お寺、お墓のことは、早めに確認する

葬儀社への事前相談は、契約を急ぐためのものではありません。

「もしもの時に何を確認すればよいか」
「家族葬にすると、誰に連絡することになるのか」
「菩提寺がある場合、先に何を確認すべきか」

といったことを、元気なうちに知っておく場でもあります。

もしもの時の流れを先に知っておきたい方は、もしも親や身内が亡くなったら?現役葬祭ディレクターが教える最初の手順ガイドもあわせて確認してください。

よくある質問

Q. 人生会議は何歳から始めればいいですか?

年齢だけで決める必要はありません。

健診、通院、保険更新、退職、引っ越し、親族の入院や介護など、生活の節目があれば始められます。

最初は「これから何を大事にしたいか」を一つ聞くだけで十分です。

Q. 人生会議では、延命治療やDNAR〈ディー・エヌ・エー・アール〉を必ず決めなければいけませんか?

決める必要はありません。

DNARとは、心臓や呼吸が止まった時に、心臓マッサージなどの心肺蘇生を行わない方針のことです。

ただし、こうした具体的な医療の判断は、家族だけで先に決めるものではありません。

本人が大事にしたいことを医師に伝え、病状や見通しを聞いたうえで考えることが大切です。

Q. 親が「子どもに迷惑をかけたくない」と言う時は、どう返せばよいですか?

「迷惑じゃない」とすぐに打ち消すより、

「全部を一人で抱えるより、困った時にどうしてほしいかを教えてくれる方が助かるよ」

と返す方が、話が進みやすいことがあります。

親の不安を否定せず、家族として支えられる形を一緒に考える姿勢が大切です。

Q. 家族葬の希望は、人生会議で聞いておいた方がいいですか?

聞いておく意味はあります。

ただし、「家族葬にする?」と形式だけを聞くより、

「誰に見送ってもらえたらうれしい?」
「友人には知らせてほしい?」
「お寺には来てもらいたい?」
「何を大事にして送ってほしい?」

と聞く方が、後から家族が判断しやすくなります。

Q. 一度決めたことは、変えられますか?

変えて大丈夫です。

体調、暮らし、家族の状況が変われば、本人の考えが変わることは自然です。

人生会議は、古い答えを守り続けるためではなく、その時々の思いを共有し直すためのものです。

まとめ|今日やることは、一つだけでいい

人生会議は、最期のことを全部決める重い会議ではありません。

本人が大事にしたいことを、家族が少しずつ知っていくための会話です。

葬儀屋として現場にいると、亡くなった後に家族が迷うのは、知らなかったことそのものよりも、

本人に聞く機会があったのに、聞けなかったかもしれない

という思いです。

だから、今日やることは一つだけで十分です。

親との何気ない会話の中で、

「これから先、何を一番大事にして過ごしたいと思う?」

と聞いてみてください。

答えが出なくても構いません。

「また今度聞かせてね」と終えられたなら、それも大切な一歩です。

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