この記事でわかること
- 死後事務委任で頼めること(対象業務の具体)
- なぜ必要?現場で起きがちな「困った」例
- 誰に依頼できる?(家族/友人/専門家)
- エンディングノートとの違いと組み合わせ方
- 契約の流れと費用目安(相場の幅)
はじめに:親が元気なうちに考えておくこと
「親が亡くなったあと、何をどうすればいいのかわからない…」
そんな不安を感じたことはありませんか?
近年、「死後事務委任契約」という言葉が注目されるようになってきました。
これは、家族や親しい人が亡くなった後に発生する「事務的な手続き」や「片付けごと」を、信頼できる誰かにお願いしておくための仕組みです。
本記事では、葬祭ディレクターとして数多くの現場に立ち会ってきた筆者が、「死後事務委任とは何か?」をわかりやすく解説し、エンディングノートや終活との関係にも触れながら、「親が元気な今だからこそできる準備」についてお伝えします。
日々対応していても、たまに施主様がこの契約によって決まっていることがあります。
死後事務委任とは?
「死後事務委任契約」とは、本人の死後に発生するさまざまな手続きや作業を、事前に第三者へ依頼するための契約のことです。
たとえば、こんなことが対象になります:
- 葬儀や火葬の手配
- 役所への死亡届提出、年金の停止などの手続き
- 入院費や施設費用の支払い
- 携帯電話・クレジットカード・サブスクの解約
- 家の片付けや賃貸物件の退去手続き
- SNSやブログなどデジタル遺品の整理
- ペットの引き取り手配
これらは「遺言」ではカバーしきれない部分。
遺言は基本的に“財産の分け方”を指示するためのもので、生活インフラや事務処理まで網羅しているわけではないケースが多いようです。
法的根拠
死後事務委任は「判例で有効」と整理されています
委任契約は通常、当事者の死亡で終了しますが、「死亡後も効力を残す旨の合意」を含む契約は有効とした最高裁判例があります(最判平成4年9月22日)。専門家に文案を確認し、何を誰がいつ行うかを具体的に書面化しておくのが安心です。
できること/できないこと
できる例:葬儀・火葬手配/役所手続(年金停止等)/賃貸退去・公共料金停止/遺品整理/関係者連絡/ペット対応 など。
できない/注意が必要な例
- 相続分配や相続税申告:相続・税の領域は別手続(相続人/税理士等)。
- 銀行口座の解約・払戻し:相続人全員の関与が前提。受任者だけではできない。
- 携帯/プロバイダ解約:約款上、解約権者が相続人等に限定の運用が多い。事前確認が無難。
- 死亡届の届出人:誰でも出せるわけではなく、戸籍法87条の範囲(親族等・任意後見受任者等)。
作成形態と費用の目安
- 作成形態:私文書でも有効だが、公正証書にすると「証拠力/実務の信頼性」が上がり、相続人や役所との摩擦を減らしやすい。一方で公正証書は“必須”ではないことも明記しておくと公正。
- 費用の相場(あくまで目安・内容次第で上下):
- 契約書作成・手数料:数万円〜30万円程度。
- 受任者の実務報酬:10万〜50万円超も(委任範囲・体制で大きく変動)。
- 事務所別の料金例や「携帯/行政手続き一式」のパッケージは事務所ごとに差。
任意後見・遺言との組み合わせ
判断力低下〜死亡後までを「任意後見 → 死後事務委任 → 遺言」でつなぐと抜けが少ない。各制度の役割を1行比較で示すと読者がつかみやすい。
制度 | 主な役割 | いつ効く |
---|---|---|
任意後見 | 判断力低下時の生活・財産管理 | 生前(判断力低下) |
死後事務委任 | 死後の事務(葬儀/解約/清算等) | 死亡後 |
遺言(執行) | 財産の分け方・名義変更の実行 | 死亡後 |
なぜ必要?よくある「困った」ケース
「遺言はあるけど、葬儀のことが何も書かれていない」
「親の家を片付けたいのに、誰が契約者かも分からない」
「携帯の解約に必要な書類が手元にない」
これらは実際に現場でよく見聞きする悩みです。
本人が元気なうちは、「自分が死んだあとのことなんて…」と話題にしにくいかもしれませんが、実はそれが家族の負担を大きくする原因になることも。
死後事務委任契約は、そういった“死後の手続き”をきちんと引き継げるようにするための仕組みです。
誰にお願いできるの?家族じゃないとダメ?
実は、死後事務委任契約は【法的な効力がある契約】なので、お願いする相手は家族以外でも問題ありません。
例:
- 信頼できる親族
- 友人
- 専門家(司法書士、行政書士、NPO法人など)
※報酬が発生する場合は、きちんと金銭の支払い方法まで決めておくことが重要です。
エンディングノートとの違いと組み合わせ方
「死後事務委任契約」が法的に効力のある契約である一方、エンディングノートはあくまで“本人の希望”を伝えるメモのような存在です。
たとえば、
内容 | 死後事務委任 | エンディングノート |
---|---|---|
法的効力 | あり | なし |
用途 | 事務処理の依頼 | 希望や想いの記録 |
記載例 | スマホの解約、家の退去手続きなど | 好きな音楽、葬儀の希望、家族へのメッセージ |
両方を組み合わせることで、法的なサポートと心のサポート、両面から“死後の備え”を整えることができます。
どうやって契約するの?
死後事務委任契約は、書面でしっかりと結んでおく必要があります。
一般的な流れは以下の通り:
- 依頼したい内容を整理する
- 依頼する相手と合意を取る
- 契約書を作成(専門家に依頼することが多い)
- 契約書を保管し、家族にも伝えておく
費用の相場は3万〜10万円前後。
専門家に依頼すると安心ですが、信頼できる個人間で交わす場合もあります。
私の感覚ではほとんどが司法書士、行政書士などの専門家と契約されています。
まとめ:親が元気な今だから、ゆるく始めよう
死後の準備というと、つい深刻に考えてしまいがちですが、
本当に大切なのは「残される人が困らないようにすること」。
「死後事務委任契約」も、「いざという時、誰が何をしてくれるのか」をあらかじめ明確にしておくための、やさしい備えです。
✅ 今できる一歩
・「どんな手続きがあるか」を家族で話してみる
・エンディングノートに、自分の希望を書いてみる
・専門家に相談だけしてみる
そんな小さな一歩が、未来の安心につながります。
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3行まとめ
- 死後事務委任は死後の事務を第三者へ託す契約で、判例上も有効に設計できる。
- 相続・口座・携帯解約など、委任だけでは足りない領域があるため線引きと体制づくりが大事。
- 作成は私文書でも可だが、トラブル回避を重視するなら公正証書が無難。費用は内容で大きく変動。
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