「お葬式はしません。できれば、誰にも知らせたくないんです…」
そんな言葉を、私は何度か耳にしてきました。
葬祭ディレクターとして、いろんな最期に立ち会ってきた私ですが、やっぱり「自死」という選択は、現場の空気も、ご家族の表情も、いつもと違います。重たいのです。
火葬場に向かう車の中、静まり返った遺族控室、──全部が、いつもより深く響きます。
今回はそんな「誰にも知られず亡くなる」ということ、そして「葬儀をしない」という選択の背景について、私なりの言葉でお伝えしたいと思います。
自死と「葬儀をしない選択」が重なるとき
自死というのは、本人の意思でありながら、まわりに何も伝えずに逝ってしまう死です。
突然の連絡に驚き、悲しみ、でも同時に「どうして?」「何かできたんじゃないか」と、自責の念に苛まれるご家族も多くいます。
特に若い方の自死の場合──学生さんや、社会人なりたての方だと、学校や職場の関係者にどう伝えるかも悩ましい問題になります。
だからこそ、「知らせたくない」「できるだけ静かに済ませたい」と、直葬(火葬式)を選ばれることもあります。
遺体搬送を終えたあとの事務所では、スタッフの空気もピリッと張り詰めます。
「今回は自死だから」「遺族はご高齢の父親だけ」──そういう情報が共有されると、普段以上に、言葉選びにも気をつかいます。
自死というだけで緊張感が違います。当然ですが対応する側も気が重くなります。死因はなにか?年齢は?死因を伏せて通知するのか?いろんな考えが浮かびます。
「静かに見送りたい」──直葬を選ぶご家族の声
ある日、36歳の息子さんを亡くされたお父さまが、会館にいらっしゃいました。
警察からの連絡で発見され、ご遺体は数日ぶりにようやく安置所へ。
顔も見ず、そっと火葬だけを済ませたい──それがご家族のご希望でした。
「本当は、母親としてもっと何かしてあげたかった。でも、あの子が誰にも知られたくないって言ってたから…」
直葬を選ばれる方のなかには、こうした故人の「静かに」という想いを尊重して決断される方もいます。
でもその裏には、「もっと何かできたのでは」というご家族の葛藤が、必ずあるように感じます。
葬儀をしないことで残る“心の整理されない痛み”
「やらなくてよかったです。あの子らしい見送り方ができました」とおっしゃる方もいます。
でも一方で──
「やっぱり、せめて何か形にしてあげればよかった」と、数か月・数年経ってから心のうちを打ち明ける方もいます。
葬儀というのは、亡くなった人のためだけじゃなく、残された人の“心の整理”の場でもあるんです。
誰にも話せず、思い出も語られず、ずっと自分の中に閉じ込めたままの喪失感。
そうして年を越して、命日を迎えても、どこかぽっかり穴があいたままの人を、私は何人も見てきました。
「見送る」という行為の意味とは?
お葬式は、なにも大々的に行う必要はありません。
大事なのは「誰かと一緒に、故人について語ること」。
たとえば──
- 写真を並べて、お茶を飲みながらその人を偲ぶ
- 好きだった食べ物を囲んで「ありがとう」と手を合わせる
- 小さな祭壇に、お花と一輪の缶コーヒーを供える
こんな風に、ひとりじゃなく、誰かと共有することで、少しずつ心がほどけていくのだと思います。
もし“知らせたくない”と思ったとき、できること
どうしても知らせたくない。誰にも会いたくない。
そんな時もあると思います。
でも、完全に何も残さないというのは、やっぱり少し寂しい。
無宗教でもいい。家族だけでもいい。
せめて自分の想いを、誰かに伝える「手段」だけは持っておいてほしいなと思います。
たとえば、
- エンディングノートに「連絡しないでほしい人」「知らせてほしい人」を書いておく
- 遺言書のような形で「最期の希望」を残しておく
- スマホに自分の声を残しておく(声を残す終活)
こういった準備があれば、残された人も、「これは本人の意思だったんだ」と、少しでも納得できます。
まとめ:その選択の先に、残る想いがある
「誰にも知られず亡くなる」ことが、すべて“悪い”というわけではありません。
でも、誰にも見送られず、誰にも語られず、静かに終わってしまう命があること──それは、やっぱり心に残ります。
葬儀をする・しない。
どちらにも良し悪しはあります。でも「何も残さない」という選択をする前に、できることがあるかもしれません。
私自身、この仕事をしていて何度も感じました。
どんな最期にも、「見送る人の心」をそっと支える場が必要なんだと。
あなたにとっての「ホッとするお別れ」、
もしよければ、いっしょに考えてみませんか?
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